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〈Woman in Action 輝く女性〉ギャラリーオーナー 稲垣早苗さん [教養]

人・もの・語らうひとときを愛おしむ。inagaki.JPG

 あなたの暮らしの中で「これは一生大切に使い続けたい」と思っているもの、ありますか? 東京・日本橋にある『ヒナタノオト』は、そう思わせる手仕事から生まれる工芸品と、使い手を結ぶ店。オーナーの稲垣早苗さんは、クラフト展も企画・運営し、作り手同士がつながる場も提供。人やものを“結ぶ”仕事について聞きました。
 
忙しい中にも“自分らしい時間”を大切に、ていねいに暮らしたい。

「ヒュッゲ」との出合い
 ■手仕事から生まれた品を長く大切に使う。すてきですね。
  
 1996年にデンマークに行き、歴史ある街並みや暮らしに、すっかり魅せられました。家具や調度品など、古いものを大切に使っている。そこで出合ったのが「ヒュッゲ」という言葉。キャンドルをともし、家族や友人と食事などしながら心ゆくまで語らうそんな心地よい空間のことです。親しい人との、ほっこりする時間を大切にする心のゆとり。そのかたわらにある受け継いだ家具や道具。この感動を日本で仕事に生かしたいと強く思いました。
 使い捨てではなく、使い続けることでより良くなるようなものを紹介したい。売っているのは日本の工芸作品ですが、精神はデンマークのライフスタイルです。ヒュッゲと出合わなかったら、私も仕事ばかりの人間になっていたかもしれません。どこかで折り合いをつけて、家族との時間も大切にするというもう一つの軸ができました。

「結ぶ」ということ

 ■長年、展覧会を持続されています。
  
 転職先で工芸の企画事業を提案し、野外クラフト展「工房からの風」が生まれました。国内でクラフトフェアが乱立していますが、作家への思いがないと残っていきません。ギャラリーオーナーと作り手、使い手と作り手を結ぶ場となっています。
 今は大学卒業後に個人で工房を持つ人が多く、師弟関係がありません。自由で良い半面、学びの場がなく続けていくのが難しい面も。兄弟子も同期もいない中、個々に活動する作り手同士を結ぶ場にもなっています。
 
 ■陶芸、ガラス、木工、染織、革など多彩なジャンルの作り手たちをどう結んでいるのでしょう?
  
 工芸の世界は約10年は修業期間が必要なので「工房からの風」に応募する人は30代半ばが多い。1度出展すると2年間は出られず、その間は企画者側で手伝ってもらうのですが、それがすごく良いみたいです。
 作家活動は、ただものを作っていればいいわけではありません。「人間力」がないと、魅力ある人とつながっていかない。そういう意味で、同じ悩みを共有できるこの「場」で学ぶことが多く、連帯感が生まれ、結果的に仕事を豊かにしているようです。
 私のギャラリー「ヒナタノオト」や「ギャラリーらふと」(千葉県市川市)では、ここに出展した新人作家の中から紹介しています。
 
 ■ギャラリーで紹介する基準は?
  
 ①土、木、天然繊維など自然の恵みの素材感
 ②手の技が反映されている
 ③作り手の感性
この三つのバランスがとれていて、暮らしの中で「使ってみたいな」と思える作品を選びます。
 大切にしているのは、使い勝手より使い心地の良さ。機能性重視ではないので、便利さを求めるお客さまはいらっしゃいません。皆さん有名無名関係なく、ご自分の価値観で選ばれています。お客さまのヒュッゲの時間に使っていただけるものに出合えたらいいな、と思っています。

心豊かな暮らしへ inagaki2.JPG
 ■執筆活動もされ多忙な中、ていねいな暮らしを心掛ける稲垣さんのスローライフに憧れる人も多いと思います。アドバイスをお願いします。
  
 私は竹職人の夫に影響され、マイペースに変わりました。良い意味で。忙しくて自分を見失いそうな時は、お気に入りの器でいっぷくのおいしいお茶を入れ、味わいます。またヒュッゲにはキャンドルがマストアイテム。火のゆらぎはホッとするし、家族との会話も変わりますね。
 時間がある時は、料理でリズムを整えます。時間を区切らず、一品ていねいに作り、好きな器に盛り付けると元気が出ます。
 
 ■今後の展望は?
 
 作家から「基地となり、他の作家と響き合える場所」と言われ、うれしかったですね。子育てで一度創作から離れた作家が戻ってきましたが、限られた時間で作るので、作品の濃度が上がってました。人間力が増している。そういう作家を応援したいですね。憧れで「作家になりたい」だけの人は続かないので、選ぶ側も見抜いていかなくては。
 今後は、もっとていねいに作っていきたいです。以前は作家よりも私の方が年下で「もの作りに口を出してはいけない」とブレーキをかけていましたが、今は求められていることが変わってきたので、もっと個々の作家に踏み込んでいければと思います。使い手が、より本質的なものを求めている時代なので、作り手はこれから手応えがあると思います。
 また、作家の言葉をきちんと残し、小冊子など形にしていきたいとも考えています。作られた「もの」も好きですが、同じくらい作っている「人」も好きなんだと思います。だから続いているんでしょうね。
■プロフィル  いながき・さなえ 日本大学芸術学部卒業。1988年、日本毛織(株)入社、「ギャラリーらふと」を立ち上げる。2001年から野外クラフトイベント「工房からの風」を総合企画。06年からフリーランスとしてギャラリー及びイベントを業務委託。日本橋のセントラルビル1階に工芸ショップ「ヒナタノオト」を開く。著書『工房からの風』『北欧の和み デンマークの扉をあけて』『手しごとを結ぶ庭』(すべてアノニマ・スタジオ)。




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