歴史を変えたエベレスト初登頂 ヒラリー卿の長男 ピーター・ヒラリー氏 [冒険]
いかに過酷な状況に挑むか
■ご自身もエベレストに登頂しています。
世界最高峰ですから、登山家にとっては究極のチャレンジです。父とテンジンが初登頂を果たしてから60年以上も経つのに、いまだに事故が起きる。それだけ危険と隣り合わせなのです。その意味で、父とテンジンが成し遂げたことは、すごい偉業です。
■何を楽しみに登るのでしょうか。
高い山に挑戦するとき、ひたすら頂上を目指してアタックしていると思われるでしょうが、そんなに単純ではない。
特に8000メートル級ともなると、長いマラソンのようなものです。3カ月くらいの間、やる気や集中力を保ち、常にポジティブでなければならない。その意志を貫くためには、相当の精神力が必要です。
■やめたくなるときも?
ずっと同じことの繰り返しなので、ホームシックにかかったり、ものすごい恐怖にさいなまれたり、倦怠感に襲われたりもします。雪崩なども頻繁に起きるので、危険を間近に見せつけられます。まさに自分自身との闘いなのです。
■初登頂を描いた映画「ビヨンド・ザ・エッジ」(KADOKAWA配給)の中で、「限界を超えてでも行くんだ」というセリフが印象的でした。
頂上まで行っても、無事に生きて帰ってこなければ成功とはいえません。だから、その境界線を判断できる人には敬意を払いたい。自分の体調や天候などを考えて判断する訳ですが、行かずに引き返せるかどうか。でも、それは悔しいことですから、また次に挑戦しようという意気込みにもつながるんです。
■そこまでして山に登るのは?
登山家のマロリーは「そこにエベレストがあるからだ」と言っていますが、若いころは全く理解できませんでした。しかし、何度も頂上に立つにつれて、やっぱり山に登る理由は、そういうことなのかなと感じるようになりました。
頂上に行くことは、登山家にとって究極の目標ですし、そのための資質、体力、技術が備わっているかどうかを、自らに問う過程なんです。いかに過酷な状況にタフに挑んでいけるか。己との闘い、精神力の闘いという面では、マロリーの言葉にも納得できるんです。
■最後に映画の見どころについて。
父はとにかく、いろいろなことに挑戦してきました。その中で、一大イベントであるエベレスト初登頂に絞って描かれているので、本当に良くできた映画だと感じます。前人未到の最高峰を制した偉業を、映画で体感してほしいですね。
○映画「ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂」は28日(土)から全国公開。
■プロフィル
1954年、ニュージーランド生まれ。エベレスト初登頂を成し遂げたエドモンド・ヒラリー卿の長男で、登山のコンサルタント。自身もエベレストには5回登っている。
若きクライミングの天才「デビッド・ラマ」さん [冒険]
若きクライミングの天才
〈2008年、絶壁を素手で登るフリークライミングのW杯総合優勝を果たしたデビッド・ラマさん。映画「クライマー」では、南米の峻峰“セロトーレ”の頂に挑戦する姿を追う〉
山頂で見えるもの――
それは強い意志と
新たに見つけた自分。
――クライミングの魅力とは何でしょうか。
自然の脅威と間近で対峙できることが、大きな魅力です。もちろんリスクはあります。しかし、だからこそ、自分がなぜ存在しているのか、また何がしたいのか、ということがより研ぎ澄まされ、深く考えられるのです。これは日常生活において、何か困難に立ち向かう時にも同じようなことがいえると思います。
――セロトーレという、さらなる高みに挑戦しようと思った理由は?
私は、他の人が不可能と言っていることに、挑戦することに引かれます。もし、他の誰かが成し遂げたことなら、確実に自分にもできるはず。しかし、不可能だとされることは、答えを自分で見いださなければいけません。そのことに私は、たまらなく心が突き動かされるんです。
――そして、そのセロトーレの頂上にもあなたは立たれました。
3度目の挑戦でやっと、“自分のスタイル”で登頂することができました。当初は競技クライマーの気分が抜けなくて、さまざまな失敗もしました。それでも、その事実を正面から受け止め、登ってみせるという強い意志で挑戦し続け、登頂することができた。
頂上から見た美しい光景は、一生忘れることはないでしょう。また、登攀を通して、自身を見つめ直すことができ、新たな自分を知ることができました。
――あなたは、なぜ山に登るのでしょうか。
人間にとって、もっとも美しいことだからです。また、私にとって山に登ることが、自身の個性を一番よく表現できるのです。
私は自分で登った山に、一つのラインが見えます。それは、登頂した行程を示すもので、その時の感情や登頂スタイルなど、全てを思い起こすことができます。つまり、登ることが自分は誰であるかという表現であり、一つのアートにもなっているのです。
〈映画「クライマー パタゴニアの彼方へ」は、8月30日から、東京・新宿ピカデリーほか全国で公開〉
■プロフィル
1990年、オーストリア生まれ。2008年にクライミング競技で史上最年少の世界王者に。ロッククライミングの技術を磨きながら、世界的に著名なアルピニストへの変容を遂げている。