狭心症等の発症・再発予防に [健康]
伊東春樹理事長
日本人の死因の第2位は、心臓病(心疾患)です。大事な心臓の機能を高めることを目的とする、
「心臓リハビリテーション(心リハ)」という治療があります。心リハについて、
日本心臓リハビリテーション学会の伊東春樹理事長に聞きました。
生活習慣を改善する治療
近年、心疾患は増えており、心疾患そのもので亡くなる方はもちろん、心疾患が元となって他臓器の不全を引き起こし、亡くなるケースも多くあります。
心臓病には、もともと構造に異常がある「先天性心疾患」と、生活習慣や感染などによる「後天性心疾患」があります。
後天性の代表は、心筋梗塞、狭心症などの「虚血性心疾患」です。心臓の筋肉(心筋)へ酸素を運ぶ冠動脈が狭くなったり、詰まってしまったりすることで生じる疾患です。
かつては心筋梗塞を発症すると長期間の安静という形をとっていました。とにかく心臓に負担がかからないようにすることが最優先だったのです。
しかし、1、2カ月も安静にしていると、「血栓ができる」「自律神経のバランスが崩れる」「筋肉が落ちる」などのデメリットも発生します。
そこで、生活の質(QOL)を大きく落とさないため、「できるだけ早く体を動かそう」という方向へ変わってきました。
心リハは、自分の病気のことを知ることから始まります。そして、患者さんごとの生活習慣の改善――すなわち安全で効果的な運動の指導、服薬指導、生活指導、禁煙指導、危険因子の是正、心のケアなどを総合的に行うものです。
医師、理学療法士、看護師、薬剤師、臨床心理士など多くの専門医療職が関わり、患者さん一人一人の状態に応じたリハビリプログラムを提案、実施します。
このように、近年、心リハは、大切な治療と捉えられています。ただし、現状で健康保険が適用されるのは、心臓病の急性期から回復期にかけての5カ月間のみです。
心臓リハビリテーションとは
心臓リハビリテーションでは、自分の病気について理解を進め、生活習慣の改善を総合的に行う
指針に基づき適度な運動
弱まった心臓の機能を高めるためには、心臓に負荷がかかる要素を取り除きつつ、全身の機能を高める必要があるため、生活全般の改善を目指します。
「危険因子を減らす」「薬の知識」「栄養指導」などに加え、「運動」を取り入れる点が特徴です。
心リハで取り入れる運動には、ウオーキング、自転車漕ぎ(自転車型トレーニング器具)、エアロビクス、筋力トレーニングなどがあります。運動の種類にかかわらず、全て「心臓によいレベルの運動」で、強すぎる負荷がかかるものは行いません。
心リハの指針に基づいて適度な運動をすることで、次のような効果が見込めます。
・酸素の取り込みがよくなり、体力が向上する。
・狭心症や心不全の症状が軽くなる。
・生活習慣病の危険因子(血圧、中性脂肪、コレステロール、血糖値など)が改善される。
・血管内皮機能(血管が自分で広がる能力)が向上し、血液の循環がよくなる。
・動脈硬化や動脈の狭窄の進行が遅れる、または改善する。
・自律神経のバランスや働きがよくなることによって、血圧や脈拍が安定し、不整脈が起きにくくなる。
・血液凝固因子が安定し、血栓ができにくくなる。
・心筋梗塞の再発や突然死が減り、死亡率が減少する(3年間続けると、約25%低下するといわれている)。
・心不全の死亡率や再入院率が減少する。
「元から断つ」ことを目指す
このように、心リハは心臓病後のQOLの向上や生命予後の改善に役立ちますが、最大の目的は「再発の予防」です。
例えば狭心症は、2、3年で再発することが多いのが特徴です。悪い生活習慣を変えなければ再発する可能性の高い心疾患を、元から断つことを目指す治療法なのです。
また動脈硬化は、実は20歳代から起き始めています。そのことを考えれば、病気になる前から心リハに取り組んだり、その考え方を知って生活に生かしたりしていくことが大切です。
近年の世界の潮流は、心疾患の「予防」に力を入れることです。これは、医療費の抑制にもつながります。
2004年にアメリカで報告された研究では、ミネソタ州のある郡で心筋梗塞を患った2821人を、「心リハをした人」と「心リハをしない人」とに分けて6年半、調査しました。
すると、心リハに参加しなかった人の多くは再発し、高い割合で亡くなっていました。それに対し心リハ参加者は、健常者と同様の生存曲線を描いており、非参加者より死亡率が56%も低くなっていました。
ここでは、心リハに関する、簡単な紹介ビデオを見ることもできます。
また、健康保険の適用が終わる5カ月以降の心リハには、NPO法人・ジャパンハートクラブなどが行っている維持期のものがあります。
心リハは、長くやればやるほど、効果が大きくなります。関心のある方は、一度確認してみてください。
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