家庭・地域・学校 つながりの豊かさが学力を育む [教育]
遺伝より育った環境
学力格差を生むのは「つながり格差」であると述べています。
2007年度から平成の全国学力テストが始まり、その結果は関係者の予想とは大きく異なり、大変に驚かれました。秋田県や福井県が上位を占める一方、都市部の大阪などが厳しい状況でした。
都道府県別の資料をもとに調べたところ、学力テストの結果と「離婚率の低さ」「持ち家率の高さ」「不登校率の低さ」とが関連していたことに気付いたのです。持ち家率が低いと、引っ越し等で人の出入りが激しいため、子どもは地域・近隣とのつながりが浅くなると考えられます。離婚率は、夫婦間、親子間のつながり、不登校率は学校・教師と子どもとのつながりと関連しているでしょう。
学力格差の背景には、一般にいわれる経済格差よりも、人とのつながりの格差の方が、大きく影響を与えている。
――学力は遺伝的な要因も大きいのではとの意見もあります。
遺伝よりも、育った環境の方が圧倒的に影響を与えると考えます。「私、どうせバカだから」と言う人がいますが、これは学力が遺伝することを前提にした考えです。私はこれには反対です。環境を変えることで、どの子も学力は伸びるのです。
同じ親から生まれたきょうだいを見てもそうでしょう。たとえ双子であっても、多くのきょうだいが、学力に差があります。家の中で上の子、下の子というように親の扱い方が変わったり、触れ合う大人や友人が違ったり、違う学校に通ったりするために、同じ親から生まれても学力に差が出るのです。
人は群れて成長する 学力は環境の影響が大きいと。
学力の構造を理解するために、「学力の樹」という捉え方を紹介しています。
樹は、およそ葉、幹、根から成り立っています。
その三つを「知識・技能」(A学力)、「思考力・判断力・表現力」(B学力)と「意欲・関心・態度」(C学力)になぞらえて捉えてみたものです。
AからC学力はそれぞれ、学校現場で子どもたちが必要とされる学力で、それらの関係を示したのが学力の樹です。一般的にテストの出来栄えで判断できるのは、AやB学力ですが、それらの土台になっているものがC学力です。つまり、根っこです。
葉や幹がきちんと育つためには、根っこが育っていなければいけません。特に「学習に対する意欲」が大切です。根っこは、土壌からたくさんの養分を吸収し、葉や幹を育てます。その養分に当たるものが、「大人の姿勢、関わり」でしょう。
――世代が異なる人や親戚・近隣の人と触れ合うこと自体が、子どもにとっては刺激となり、学びへの意欲となりますね。
実際に、学力が上位である福井県を見て思うのは、「群れる力」がある点です。
地域組織が生きていて、若い子から年配の人まで交流する機会が多いのです。
哺乳類は群れて生きます。人間も動物です。群れの中で、自分より世代が上の人を見て教わり、生きる上で欠かせない力を付けます。
年齢が上がると責任が上がり、今度は下の者に教える――このような構造があります。群れる中で多様な人と関わりを持ち、学びの意欲も高めていくものなのです。
都市部では、群れる機能が損なわれています。地域組織には人が集まらず、家庭生活が変化して、家族がバラバラです。
お母さんが一人で子どもの面倒を見て、ご飯を食べる時間も異なり、夫婦も週に数回しか顔を合わせない。そのような状況が当たり前のようになっています。
親が学ぶ姿を見せる
親自身がよい人とつながりを持つこと、親が孤立していないことです。親にいろいろな知り合いがいることが、子どもの学力向上にも通じます。
そして、親が勉強している姿勢を子どもに見せることでしょう。口で「勉強しなさい」と言っても効果はほとんどありません。
逆に、努力して勉強をしている大人の姿勢は、最も子どもに刺激を与えます。
本好きの親を見ながら育つと、子どもも本好きになるといった、シンプルな話なのだと思います。
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