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子どもの「自立」の意味 [親と子供関係]

障がい者の視点から
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 子育ての目的は、子どもの自立にあるといわれます。この「自立」の意味について、障がい者の視点から、小児科医の熊谷晋一郎さんに聞きました。

震災の体験から

 ――「自立」とはどのような状態のことを指すと考えていますか。

 
 一般的に、自立は依存の反対語で、人に頼らずに、自分のことは自分で行えることだと捉えられていますが、私は少し違う視点から考えています。

 私は障がいがあるため車イスで生活していますが、3・11の震災の時、このような体験をしました。私は建物の揺れが収まるのを待ち、急いで逃げたのですが、エレベーターの安全装置が作動し、動きませんでした。逃げ遅れたのです。

 その時に感じたのは、健常な人は、逃げる方法がたくさんある。階段もあるし、はしごやロープを使うこともできる。複数の物に依存して逃げられるのに、私のように障がいがあると、依存先はエレベーター一つしかないという点です。エレベーターがないと逃げることができません。

 障がい者というのは、“依存できる先が少ない状態の人”のことだと、あらためて気付かされたのです。

  

 ――健常者と障がい者の違いは依存先の数の違いだと?

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 はい。先ほどの例をイラスト(図1)で表すと分かりやすいでしょう。図の矢印は依存先、矢印の太さは依存の度合いを表します。健常者は依存先がたくさんあり、障がい者は少ない。障がい者は依存先が一つしかないので、矢印は太くなります。健常者は一本一本の矢印が細い。一般的に、矢印の数は、多ければ多いほど細くなると考えられます。一つがなくなっても、他の何かと取り換えられるからです。

生き方の選択肢を増やす  ――矢印が太いと、それなしには生きていられない度合いが強いのですね。
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 依存先が増えれば増えるほど、最終的に矢印の一本一本は髪の毛のように、細くなっていくでしょう。矢印が多くなればなるほど、何にも依存していないように錯覚するのです。自立というのは、依存先をなくすことではなく、矢印の数を多くする、つまり依存先を増やすことだと私は思うのです。

 以上のことを踏まえて、子どもの自立を考えてみましょう(図2)。最初、赤ちゃんの依存先は親しかありません。赤ちゃんから親に太い矢印が向かいます。
  

 ――親なしでは生きていられない状態ですね。
 
 しかし、成長とともにできることが増えていきます。親以外のものにどんどん頼れるようになっていく。友だちとか、先生とか、商店街のおじさんとか、人間だけではなく、いろいろな道具や社会制度を使うようにもなります。依存先が増えることで、親への矢印がどんどん細くなります。

 依存できるものをどんどん開拓し、増やしていくことで、自立していくのです。

 親への矢印が細くなり、依存先が増えれば、より生き方の選択肢が増え、自由になります。そのようにして、子どもは成長していくわけです。

依存先を開拓し、増やすこと 適度な支え合い  ――子どもの自立のためには、1人暮らしをさせた方が早いという意見もあります。

   一概にいえる話ではありません。ただ、親がいつも子どもと一緒にいる親子関係だと、周囲の人間は子どもに関わりづらくなりますね。下手に手を出してはいけないのではないかと思い、関わりが少なくなりがちです。

 一方で、親から離れ、少し“弱そう”にしている、困っている感じの方が、気に掛けられやすくなります。結果的に、周囲との関わりが増え、子どもの依存先が開拓されやすいのです。

 その意味で、子どもが外に出て1人暮らしをすることは、親以外の依存先を広げられるので、効果があるとは思います。

 ――親との関係を薄くすることではなく、親以外の依存先を増やすことが大切なのですね。

  最近は、親も依存先が少ないのではないでしょうか。子どもだけでなく、支える側の親も依存できる先が少ないから、子どもから離れられない。

 親自ら、弱さをさらけだし、人に頼り、支援をお願いすること。その姿を通して、子どもも困った時は助けを求めていいのだと学びます。他人に迷惑を掛けてはいけないという発想が中心で、自分で何とかしようとし過ぎると、依存先が減っていきます。これでは結果的に、自立が妨げられてしまうのです。

 社会は相互依存のネットワークですから、適度に支え合いながら生きていくのが自然です。何にも依存しない自立というのはフィクション(虚構)です。そのフィクションに踊らされて、道を誤ることは防ぎたいものです。

■プロフィル  くまがや・しんいちろう 1977年、山口県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター特任講師。仮死状態で生まれ、後遺症で脳性まひに。大学在学中には1人暮らしを経験。小児科の外来を担当する。


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