海の生きものたち【サザナミフグ】 [自然]
寄り添う母子の謎
長年、水中撮影をしている(水中写真家 中村征夫さん)、生きものに対するこれまでの常識が、大きく覆るような出来事に遭遇することがある。このときがまさにそうだった。海に入ると、寄り添っている2匹のサザナミフグが目に入った。
2匹とも大きさに大差はないが、体の模様から母子に見えた。後ろのフグにはあどけなさが残り、まるで母乳を飲んでいるようなしぐさだった。だがフグにお乳はないうえ、いつまでもこの体勢を保っている。
私は子どもの口元を見ようと左手に回り込んだ。すると、母子は懸命にヒレを動かしながら旋回し、口元を見せまいとする。それならばと右に回り込んでみるが、2匹は同じように逆方向へ旋回する。何度か同じことを繰り返したが、ついに諦めざるを得なかった。
子どもの口元を見せてくれないのはなぜなのか。ますます疑問が膨らむばかりだったが、そのうちダイバーが現れ、2匹の間に割り込んでしまった。驚いた母子は二手に分かれた。そのとき、私は2匹が離れなかった謎がとけたのだった。
母親の左腹部は何者かに襲われたのか、3カ所も赤くただれ、深い傷を負っていた。自然界は情け容赦のない世界だ。仲間からはぐれたり、けがをしたりしただけで、飢えた捕食者はそれを察知し襲いかかる。
子どもは母親の傷を捕食者たちに悟られないよう、ずうっと自分の顔で傷口を隠していたのだった。なんという親思いの健気な子なのかと、胸が熱くなった。
私は静かにその場から遠ざかった。すると、子どもは急いで母親の元へと泳ぎ寄り、再び同じように、ぴたりと寄り添うのだった。
長年、水中撮影をしている(水中写真家 中村征夫さん)、生きものに対するこれまでの常識が、大きく覆るような出来事に遭遇することがある。このときがまさにそうだった。海に入ると、寄り添っている2匹のサザナミフグが目に入った。
2匹とも大きさに大差はないが、体の模様から母子に見えた。後ろのフグにはあどけなさが残り、まるで母乳を飲んでいるようなしぐさだった。だがフグにお乳はないうえ、いつまでもこの体勢を保っている。
私は子どもの口元を見ようと左手に回り込んだ。すると、母子は懸命にヒレを動かしながら旋回し、口元を見せまいとする。それならばと右に回り込んでみるが、2匹は同じように逆方向へ旋回する。何度か同じことを繰り返したが、ついに諦めざるを得なかった。
子どもの口元を見せてくれないのはなぜなのか。ますます疑問が膨らむばかりだったが、そのうちダイバーが現れ、2匹の間に割り込んでしまった。驚いた母子は二手に分かれた。そのとき、私は2匹が離れなかった謎がとけたのだった。
母親の左腹部は何者かに襲われたのか、3カ所も赤くただれ、深い傷を負っていた。自然界は情け容赦のない世界だ。仲間からはぐれたり、けがをしたりしただけで、飢えた捕食者はそれを察知し襲いかかる。
子どもは母親の傷を捕食者たちに悟られないよう、ずうっと自分の顔で傷口を隠していたのだった。なんという親思いの健気な子なのかと、胸が熱くなった。
私は静かにその場から遠ざかった。すると、子どもは急いで母親の元へと泳ぎ寄り、再び同じように、ぴたりと寄り添うのだった。
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